豊穣の海4部作の第4作

 読んだ後で生きるのが嫌になる一作。

 作者はこの作品を仕上げた後で自殺なさったそうで、たぶん、これを書きながら死のうと考えてたんだろうなあと思います。
 たぶん、暁の寺くらいから死にたくなってたんじゃないのかなあ。

 話の持っていきようでは最後はどうとでもなりそうなところを、これ以上ないくらい絶望的なラストで終わってます。
 こんな最悪などんでん返し今まで読んだ事ない。
 ある意味夢オチよりタチが悪い。

 76歳になった老人本多君は転生の印のほくろがある美少年透君16歳を見つけて養子にします。
 貧しい孤児で中卒の透君はいきなり大富豪に乞われて跡継ぎとして養子になるのです。

 やがて透は本多の家財産を乗っ取ろうとして、本多を支配し優位に立とうとする。
 本多は透が松枝飯沼月光姫と同じく20歳で死ぬと信じている。
 だから現在透が本多より優位に立っていても、80近い自分より20前の透の方が先に死ぬので耐えて忍んでいる。

 この二人の関係が醜悪で、醜悪すぎて魅了される。
 
 大変読後感も悪く嫌悪感を感じますが、この二人の醜さには読んでて甘美を感じました。
 腐ったものが放つ芳香でしょうか。

 この二人のたどり着いた先を読んで、一件落着したかと思った後に、思いもかけないどんでん返しが待っています。

 このラストも色々解釈のしようはあると思います。
 ていうか、一読して
「はああ?
 どゆこと?????」
 て言うラストだし。
 でも、どう解釈しても、やりきれない。
 
 本多の一生はなんだったのか。


 解説を読むと「豊饒の海」とは月の海の名前。
 月の海「豊饒の海」は豊饒と名はついているけれど、実際は何もないカラカラの砂漠。
 なのだそうです。

 読後にタイトルの意味を知ると、ああなるほどなと感じます。
 各巻のタイトルは、中味のまんまでした。

 読んで気持ちのいい話じゃないし、友達に進めたら恨まれそうな読後感の悪い話ではあるけれど、誰かと語り合いたい一作でした。


 ☆


 もしも私に続きを書く事が許されるなら、最後に某女の腹に宿っていた赤ん坊こそを最後の転生した人物としたい。
 そして本多にはもう十数年長生きさせて、幸せな死を迎えるまでを書いてみたい。
 

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